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仙台高等裁判所 昭和54年(行ケ)5号 判決 1982年10月29日

原告

久保木茂利

原告

高橋晴光

原告

熊谷英一

右原告ら訴訟代理人

大字一

被告

福島県選挙管理委員会

右代表者委員長

白石義夫

右訴訟代理人

堀切真一郎

渡辺健寿

(後綴・更正決定<省略>)

右指定代理人

小林伸三

外四名

主文

一  昭和五四年四月二二日執行の福島県石川郡平田村村長選挙の効力に関する審査請求につき、被告が同年八月二五日にした裁決を取消す。

二  右選挙を無効とする。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  申立

原告は主文と同旨の判決を求め、被告は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。

第二  請求原因

一  原告久保木、同高橋、同熊谷は、いずれも昭和五四年四月二二日を選挙期日として行われた福島県石川郡平田村村長選挙(以下「本件選挙」という)の選挙人であり、原告高橋はまた候補者でもある。

本件選挙は、沢村金治と原告高橋との二候補者間でその当落が争われたところ開票の結果、沢村金治が二九〇五票、原告高橋が二七二一票をそれぞれ得票したとして沢村金治が当選人と決定された。

原告久保木は同年五月四日平田村選挙管理委員会(以下「村委員会」という)に対し本件選挙の無効と沢村金治当選の無効を主張して異議申立をしたが、村委員会は同年六月二日に異議申立を棄却する旨の決定をした。

原告久保木、同高橋、同熊谷は同月一五日被告に対し審査の申立をしたが、被告は同年八月二五日右審査申立を棄却する旨の裁決をした。

二  しかしながら、本件選挙には以下に述べるような無効原因が存する。

1  不在者投票管理者である村委員会委員長我妻源三郎の管理にかからない不在者投票が行われた。すなわち、

(1) 本件選挙においては、告示の日である昭和五四年四月一五日から選挙当日の前日である同月二一日までの間に二九一名の者が不在者投票をなし、このうち村委員会で受付をして投票をした者は別表番号1ないし252(66番欠番)記載の二五一名(本来は二五二名であつたが、そのうち一名が選挙当日に村民でなくなり、投票の効力を失つた)であつた。

そして、前記のとおり本件選挙における村委員会委員長(以下、「村委員長」という)は我妻源三郎であつた。このほか、村委員会書記長(本件選挙の選挙長に選任された)となつたのは平田村役場総務課長の熊谷行雄、村委員会書記又は併任書記となつたのは、同総務課職員の久保木徳男、蓬田栄男、生田目宗一、和泉政恵、橋本日登美、大沼茂司、大沼幸子および平田村村議会事務局長の生田目昌幸と同事務局職員の小林トミエであつた。そして、村委員長である我妻源三郎は公職選挙法(以下「法」という)四九条一項、同法施行令(以下「令」という)五五条一項により、不在者投票管理者となつた。

なお、不在者投票記載場所は、平田村役場庁舎内にある同村議会事務局事務室内の一隅に設置された。

(2) ところで、令五六条によると、「選挙人が不在者投票をする際、不在者投票管理者は、投票用紙及び投票用封筒の点検をなし同用紙などの提出等をさせなければならない」ものとされている。そして、我妻委員長は、右のとおり本件選挙における不在者投票の管理者であるから、その管理者としての認識をもつて右不在者投票に関する事務を総括し指示監督しなければならない(法三七条、令五六条、二四条、二五条)。したがつて、管理者が管理しない選挙における投票は、右各法条に違反しかつ「日本国憲法の精神に則り……その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行なわれることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする」制度の確立(法一条)に背馳し当然無効である。

(3) しかるに、我妻委員長は、告示によれば、選挙の事務は一切熊谷選挙長が管理執行するものであると誤認し、委員長である自己の管理下に執行されるべきものであるとの認識は全くなかつた。

(イ) 我妻委員長は右の管理認識がなかつたので、原告久保木の異議申立がなされるまで全く自己に不在者投票についての管理責任があり、委員長管理のもとに右不在者投票が行なわれるべきものであることを意識していなかつた。

(ロ) 我妻委員長は、告示(四月一五日)の前の選挙管理委員会開催当日(四月九日)委員及び書記同席の際において、右熊谷選挙長に対し「私(我妻委員長)は、不在者投票に関係しなくとも(たずさわらないでも)よいのか。」と問いただした。それに対し、右選挙長は、「関係ない」と述べたので、全く右不在者投票に関与しなかつた。

(ハ) なお我妻委員長は、告示当日(四月一五日)及びその翌日村役場に出向いた際、不在者投票者が多いようであつたところから熊谷選挙長に対し、再度自分には不在者投票に関し「関係ないのか。」とただしたところ、同人から「関係ない。」といわれたので全く関与することをしなかつた。そして、我妻委員長は、自己が本件選挙の不在者投票の管理者であることの認識を有していなかつたので、不在者投票期間中である四月一五日から同月二一日までの間不在者投票の投票所に出頭することをしなかつたし、同投票の管理も全くしなかつた。

(ニ) 以上の各事実からも明らかなとおり我妻委員長は、右不在者投票を全く管理する意思を有しておらず、又管理する行為もしなかつた。したがつて、右不在者投票はその管理者不在の投票であるからすべて無効である(法第三七条)。

2  本件選挙の不在者投票の際に立会人となつた者については、不在者投票管理者によつてその立会人に選任するための辞令交付又はなんらかの指名行為がなされないまま立会人となつたから、立会人としての資格を欠くものであり、また、不在者投票の管理を補助し、投票事務の執行をする事務補助者が右の立会人をも兼ねていたものである。

(1) 不在者投票管理者およびその補助者らは、不在者投票に関する事務を担任する執行機関である(法三七条)。これに対し、不在者投票の立会人は、選挙が選挙人の自由意思により適正に行われるよう不在者投票事務の執行を監視するための機関である(法三八条、令五六条二項)。従つて、これらを同一人が兼ねることは許されない。

(2) しかるに、本件選挙の不在者投票においては、次のように不在者投票管理事務補助執行者が不在者投票立会人も兼ねていた。すなわち、

(イ) 別表記載二五一名の不在者投票者のうちその「不在者投票立会人」欄に「生田目昌幸」と記載された一九二名については生田目昌幸が、また、「小林トミエ」と記載された五四名については小林トミエがそれぞれ不在者投票立会人となつたが、さらに、橋本日登美、関根寛と同欄記載のとおり不在者投票立会人となつている。

(ロ) ところで、前記のとおり生田目昌幸は平田村議会事務局長、小林トミエは同事務局職員であつたが、本件選挙においてはともに村委員会併任書記になつたから、不在者投票においては不在者投票管理事務補助執行者であつた。

(ハ) そして、生田目昌幸は、小林トミエに対し不在者投票事務の指導をし、不在者投票人に対し投票方法を説明し、その代理投票を希望した投票人にこれが申請書の受付や投票の代理記載をし、また、投票済封筒の受領をする一方で、右のように投票立会もした。

また、小林トミエは、不在者投票の際、投票者の宣誓書と選挙人名簿を照合し、投票者に投票用紙、封筒を交付し(なお、同人が席をはずした時は生田目昌幸がこれらの行為を行つた)、また、投票済の投票用紙が入つた封筒を保管し、夕方まとめて久保木徳男に引継ぎをする一方で、右のように投票立会人もした。

(3) 被告は、生田目昌幸につき、同人が不在者投票の事務執行と投票立会の双方を行つたとしても、これを、全体的にみれば、未だ個々の投票者毎に同一人が選挙の事務執行と投票立会とを同時に兼ねたものとはみられないから許される旨主張する。

しかし、選挙の公明適正ということはこれを全体的に判断すべきものであり、全体の不在者投票の中で、選挙事務の執行をなしている状態と立会人となつている状態とが判然と区別できないような場合には、一体として両職務が兼務して遂行されたとみるのが正当である。

(4) このように、生田目昌幸と小林トミエは本件選挙の不在者投票において、不在者投票管理事務補助執行者と不在者投票立会人とを兼ねて行つたものであるから、両名が立会人となつた投票は、法三七条、三八条、一条、令五六条二項に違反し無効である。

(5) 橋本日登美は前記のように平田村役場職員であつたが、本件選挙においては、村委員会併任書記に任命され、選挙の管理事務補助執行者となつた者である。また、関根寛は平田村役場会計室の職員であつたが、本件選挙においては、村委員会の職員に任命されたことがなく、したがつて、その事務従事者たる地位にはなかつた。そして、この両名は、不在者投票管理者からその立会人となるための任命も辞令交付もされず、橋本は小林トミエに依頼され、また、関根は久保木徳男に依頼されて前記のように投票立会人となつたものであるが、小林トミエや久保木徳男は本件不在者投票における立会人を選任する権限は有しないのであるから、橋本と関根とは投票立会人となる資格のないまま立会人となつたものである。

なお、前述の生田目昌幸や小林トミエもまた前記の立会人となるについて、不在者投票管理者からその辞令を受けていないし、また、何らかの指名行為もなされていないのである。

以上の次第で、これらは、いずれも法三八条一項、令五六条二項にてらし、不在者投票の立会人としての資格を有しないものが立会人となつたことになるから、この点からも別表記載の不在者投票は無効となるべきものである。

3  不在者投票用外封筒に虚偽の記入がなされ、また、その記載事項が不正に書き変えられた。すなわち、

(1) 別表2 27 28 30 31 40 61 62 64 148 149 196 209 214 241 251記載の投票者については、いずれも、真実は生田目昌幸に代理記載させて代理投票をしたのに、本人が投票した旨記載されている。そして、このうち、別表27 30 40 61 62 209 214記載の投票者につき、右の虚偽記載をしたのは生田目昌幸である。

(2) 別表5 6 9 32 35 38 39 41 52 75 76 85 86 88 89 90 122 139 143 165 167 168 172 189 191 198 199 201 202 216 233 235 236 237 238 244 246 249記載の投票者については、蓬田栄男が代理記載した旨記載されているが、書き変えられた痕跡がある。そして、このうち、5 6 9 35 38 39 41 52 75 76 85 86 88 90 122 139 143 168 172 191 198 201 233 237 238 244 249記載の投票者については、真実は生田目昌幸が代理記載したものである。

(3) 別表3 63 64 65 67 68 69 70 71 72 73 133 158 159 214 239 243 245 247 248 250 251記載の投票者については、生田目昌幸が不在者投票立会人であつた旨記載されている。しかし、これらについては、不在者投票立会人として小林トミエの氏名が記載されていたのが、生田目昌幸と書き変えられたものである。

(4) 別表18 37 79 80 139 235 236 237 238 244 246記載の投票者については、生田目昌幸が不在者投票立会人であつた旨記載されている。しかし、これらについては、不在者投票立会人として蓬田栄男の氏名が記載されていたのが、生田目昌幸と書き変えられたものである。

(5) 別表9 35 75記載の投票者については、小林トミエが不在者投票立会人であつた旨記載されている。しかし、これらについては、不在者投票立会人として生田目昌幸の氏名が記載されていたのが、小林トミエと書き変えられたものである。

(6) このような虚偽記入や記載内容の改ざんは、選挙の公明適正の原理に反するもので、公職選挙法の精神に背くものであるから、かかる行為の行われた不在者投票は無効である。

4  別表1ないし252記載の投票者による不在者投票を入れた不在者投票用内封筒には、封がなされていないものが多数存在した。

この封がなされなかつたのは、前記生田目昌幸と小林トミエが各投票者にそのように指導したことによるものであつて、これは令五六条一項、三項に違反し、適正な投票結果を不明ならしめるものであるから、これらの投票は無効である。

5  不在者投票後、投票の入つた封筒につき不公正な保管、管理がなされた。

(1) 投票の入つた封筒は不在者投票管理者が自ら保管、管理すべきものである。

本件選挙以前の選挙においては、村役場庁舎内の第一会議室に村委員会専用ロッカー二個を設置してその中に投票の入つた封筒を保管し、このロッカーの鍵は村委員会書記長が預り管理し、さらに、右会議室全体を村委員会の専用室として、他の者の利用を禁じていた。

(2) しかるに、本件選挙においては、不在者投票後の投票の入つた封筒は、夜間は、これらを大きな角封筒に入れ、この角封筒に封もせずに収入役である上遠野丈夫に保管を託していた。同人は、これらを保管、管理する資格を有しないばかりか、沢村金治候補を当選せしめるために連日選挙運動をしていた同候補の中心的運動員であつた。

(3) このように沢村金治候補の運動員である者に封をせずに保管を託すことは、投票改ざんの危険を生ぜしめる不適正なもので、法四九条、六八条一項六号、令五六条以下に違反し、法一条の選挙の公平適正の原則に反するものである。

6  不在者投票が法定開票日より前に不在者投票管理事務補助執行者らによつて違法に開票された。

(1) 開票は選挙の投票の当日又はその翌日に行うものとされ(法六五条)、本件選挙の開票日は昭和五四年四月二二日であつた。公平で適正な選挙を保障するため、法の定める方法で、定められた開票日に開票すること以外には、何人もそれ以外の日にほしいままに開票して投票の結果を事前に知ることは許されないものである(法一条、五二条、二二七条、二二八条、憲法一五条四項)。

(2) 本件選挙において不在者投票が済んだ投票入りの封筒は、日中は生田目昌幸と小林トミエが保管し、夕方以降は紙製の大きな角封筒に入れられてこれに封をしないまま収入役の上遠野丈夫に預けられ、同人によつて金庫に保管されたこと前述のとおりである。

ところで、その不在者投票用外封筒の封かん部は「平田村選挙管理委員会委員長之印」と刻された角形の職印によつて封印されているが、別表8 19 29 32 52 61 67 78 174 177 185 212 222記載の投票者に関するものについて、この印影の左右のうちの一辺が他の一辺より長くなつているもの、あるいは、上下の辺の長さが同じでないものがある。また、印影の形がひしげ、あるいは、つぶされたのがあり、さらに、封のりづけ個所が白くなつて空間をつくつているのがある。これらは、明らかに、一度のりづけして封をしたのを開封し、その後、再度のりづけして封をしたことによるのである。

(3) このように不在者投票が開票日以前に不正に開票されたものであるから、不在者投票全部が無効である。

7  不在者投票記載場所が、投票者の自由な意思による投票を阻害するような不適当な場所に設置された。

(1) 市町村の選挙管理委員会は、投票所において選挙人が投票の記載をする場所について、他人がその選挙人の投票の記載を見ること又は投票用紙の交換その他の不正の手段が用いられることがないようにするために、相当の設備をなし投票記載の場所及び設備をもうけなければならない(令第三二条)。しかも、右の場所及び設備は選挙人の自由に表明せる意思によつて、公明かつ適正に行なわれることを確保しうるものでなければならず(法第一条)、演説討論をし若しくはけん騒にわたり又は投票に関し協議若しくは勧誘をしたりする者がないように投票所としての秩序を保持し(法第六〇条及び第五九条)、濫りに選挙人、管理者等の者以外の者が出入りをしない状態のものでなければならない(法第五八条)。

(2) しかるに、本件選挙において設置された不在者投票記載場所は、前記のように村役場庁舎内にある村議会事務局事務室内の片隅で、しかも二メートルと離れていないところでその事務職員が事務をとり、また、多数の職員が同記載場所の前を往来するような場所であつた。さらに、事務室の一部であつたところからけん騒でもあつた。そのため、代理投票をさせた者は、投票の秘密の保持の権利(法第五二条)が保障されず、周囲の職員に気をつかいながら、しかも、当時現職であつた沢村金治候補に事実上投票せざるを得ない状態で投票させられた。

(3) これに対し、前回の村長選挙の際の不在者投票記載場所は、役場のコピー室であり、知事選挙、参議院選挙の際には第一会議室をもつてあてられていたのである。右の場所は、いづれも他の人の出入はなく、投票の秘密は守られる場所であつた。

(4) したがつて、本件の不在者投票記載場所を右場所に設置したのは、前記法令に違反し、当然投票管理が違法となり、右不在者投票は無効となるものである。

8  法四九条一項各号の不在者投票事由に該当しない者に不在者投票をさせた。

(1) 本件選挙においては、不在者投票をした者が二九一名であり、このうち村委員会受付にかかるものが別表記載の二五一名であつたこと前記のとおりである。

原告久保木の異議申立に対して村委員会が昭和五四年六月二日これを棄却する旨の決定をしたこと前記のとおりであるが、その決定書においては、二八五名が不在者投票事由該当者であつて、そのうち法四九条一項一号該当者が九四名、二号該当者が一一二名、三号該当者が九七名であつた、としている。

(2) しかし、本件選挙における不在者投票の中には、真実に法四九条一項一号に該当する者は一名もいなかつた。また、法四九条一項二号に該当するためには、あらかじめ日程が定められ、既に乗車券が入手され、旅館の予約が行われている等その計画を変更することが困難な事情の存することを要するにもかかわらず、単に「私用旅行」や「温泉行き」等の名目をつけ選挙当日不在の旨記載して申出をすると、すべて不在者投票を認めていた。しかも、法四九条二号該当の事由で不在者投票をしたほとんどの者は、選挙当日の四月二二日は自宅に居たのである。

次に、法四九条一項三号に該当するのは、入院中で歩行のできないもの、或いは車に乗つて行くこともできないものなどであつて、しかも、選挙当日には自ら投票所に行けない状態にあることを疎明したものでなければならない。しかるに、本件選挙においては、右の不在者投票の必要性について、医師の証明書や診断書などによる疎明がなく、その要件に該当しないものを右の三号該当者として安易に不在者投票をさせた。しかも、沢村金治候補と親戚で同候補のため選挙運動をしていた者が経営していた沢村病院の入院患者で不在者投票をした一八名については、右病院側が右一八名を病院の関係自動車に乗車させて不在者投票所に連れて行き、右一八名の患者が自分で受付係へ不在者投票の申請をなし、宣誓書に単に入院中とだけ記載しただけで医師の診断書も証明書も添付せずその他の疎明資料も提出しないのに、投票事務補助執行者はまんぜんとこれに不在者投票をさせた。

三  以上の次第で本件選挙における二九一票の不在者投票は、ほとんど右沢村金治派によつて現職をたてに権力をもつて、組織的に動員してさせたものである。したがつて、右不在者投票の二九一名の投票は総て無効となるものであり、これは四月二二日執行の平田村長の選挙の結果に大きく異動を及ぼすものである。

すなわち、本件選挙において当選者とされた沢村金治候補の得票は二九〇五票、落選者とされた高橋晴光候補の得票は二七二一票とされ、その両者の差は、一八四票であるから、右沢村候補が有したとされる二九〇五票から右無効である不在者投票分の二九一票を差引くと、同人の得票は二六一四票となり高橋候補の有した票二七二一票より一〇七票少ないこととなる。そこで、右不在者投票が無効となると、その結果、高橋晴光が当選者となるのである。

よつて、原告らは、右不在者投票が無効であることにより本件選挙が、無効となるものであるから、被告のなした本件の裁決の取消しと本件選挙が無効であることの確認を求めるものである。

第三  請求原因に対する答弁と被告の主張<以下、事実省略>

理由

第一昭和五四年四月二二日に行われた本件選挙において、沢村金治と原告高橋との二候補者間でその当落が争われたところ、沢村金治が二九〇五票、原告高橋が二七二一票を得票し、沢村金治が当選人と決定されたこと、原告らは本件選挙の選挙人であり、原告久保木が同年五月四日、村委員会に対し本件選挙の無効と沢村金治の当選無効を主張して異議申立をしたが、村委員会は同年六月二日に右異議申立を棄却する決定をしたこと、そこで、原告らは同月一五日、被告に対し審査の申立をしたが、被告は同年八月二五日に右審査申立を棄却する裁決をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

原告らは、本件選挙における不在者投票について無効原因があり、不在者投票がすべて無効となる結果、本件選挙が無効になる旨主張し、被告は不在者投票の一部が無効であることは認めるものの、本件選挙が無効であることは争うものであるところ、本件選挙においては、告示の日である昭和五四年四月一五日から選挙当日の前日である同月二一日までの間に二九一名の者が不在者投票をなし、そのうち、村委員会で受付けをして投票した者は別表番号1ないし252(66番欠番)記載の二五一名(本来は二五二名であつたが、そのうち一名が選挙当日に村民でなくなり、投票の効力を失つた)であつたこと、村委員長は我妻源三郎、村委員会書記長(本件選挙の選挙長に選任された)となつたのは平田村役場総務課長の熊谷行雄、村委員会の併任書記となつたのは、同総務課職員の久保木徳男、蓬田栄男、生田目宗一、和泉政恵、橋本日登美、大沼茂司、大沼幸子および平田村村議会事務局長の生田目昌幸と同事務局職員小林トミエであり、我妻源三郎が不在者投票管理者であつたこと、不在者投票記載場所は平田村役場庁舎内にある議会事務局事務室内の一隅に設置されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

第二原告らの主張の無効原因について

一不在者投票管理者我妻源三郎の不在者投票に対する管理について

不在者投票管理者は、不在者投票に関する事務を担任執行するものであつて、不在者投票記載場所は不在者投票管理者によつて管理されなければならないが(法四九条一項)、ここにいわゆる管理とは、不在者投票管理者の管理権が投票記載場所に社会通念上時間的、場所的に及んでいることをいうものであるから、不在者投票管理者は投票記載場所が設けられたと同じ室内又はこれと接続した場所の不在者投票記載場所が見渡せる位置に在席して監視していれば、不在者投票の管理として欠けるところがないのはもとより、右の意味での管理権が及んでいると認められるかぎり、不在者投票期間中に不在者投票管理者自身が常時それらに在席していなくとも、管理事務補助執行者を右の場所又は位置に在席させて管理にあたらせることも許されるのであつて、不在者投票管理者の管理権が及んでいるかどうかは抽象的、権能的に理解して妨げないものである(最高裁昭和四九年一一月五日判決、民集二八巻八号一五四三頁参照)。

これを本件についてみるに、<証拠>を総合すると、前記本件選挙の不在者投票管理者であつた我妻源三郎は、本件選挙の告示の前日頃熊谷書記長と本件選挙の管理執行について打合わせをしたが、その際不在者投票の管理を含めこれについては、自己の統轄の下に熊谷書記長が配下の前記書記を指示してこれを行わせることとしたこと、そこで、我妻委員長は不在者投票期間中の大部分は投票記載場所に臨席していなかつたものの、告示の日である四月一五日には選挙管理委員長の腕章を着用して投票記載場所を見廻つたほか、同月一六日、一九日、二一日にも投票記載場所の置かれてある平田村役場庁舎に出向いて村委員会書記に不在者投票者の人数や投票用紙の保管のことを聴取するなどし、また、投票記載場所の近くに不在者投票管理事務補助執行者として生田目昌幸、小林トミエ、久保木徳男、蓬田栄男などの書記を配置して不在者投票管理事務を補助執行せしめる処置をとり、さらに、右のように自ら投票記載場所に臨席していないときには、そこから約五〇〇メートルの距離にある自宅に待機していていつでも出頭できる態勢にあつたこと、以上の事実が認められるから、これによれば、本件選挙における不在者投票はその管理者である村委員長我妻源三郎の管理のもとに行われたものと認めることができる。

従つて、不在者投票管理者により管理されない不在者投票が行われたから、本件選挙の不在者投票は無効であるとの原告らの主張は理由がない。

二不在者投票立会人について

1  辞令交付の欠如

原告らは、不在者投票の立会人となつた者につき、その立会人となるについての辞令交付や指名行為が無かつたと非難する。

本選挙において生田目昌幸、小林トミエ、橋本日登美、関根寛の四名が不在者投票の立会人となつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、熊谷行雄書記長は、前記のように我妻委員長からの指示に基づき、不在者投票については、配下の前記平田村役場総務課職員久保木徳男の総括のもとに同人ら七名の者には受付(選挙人名簿の対照、宣誓、代理投票の受付、投票)等を、同議会事務局職員の併任書記生田目昌幸、小林トミエには立会人を担当させてこれを執行することとし、これらの者にその旨各職務と分担とその円滑な執行を併わせ指示したこと、そこで、生田目昌幸、小林トミエは右熊谷書記長の指示に基づき右のように不在者投票立会人となつたものであり、また橋本日登美は右生田目が投票の席を外した際に右小林から、さらに、関根寛は右生田目や小林がともに席を外した際に前記熊谷書記長から不在者投票事務の総括を指示され、受付等に従事していた久保木徳男からそれぞれ指示されて不在者投票立会人となつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして右認定事実によれば、右生田目ら四名はいづれも不在者投票管理者である我妻委員長から右立会人に選任されたものと認めるのを相当とする。ところで、右生田目ら四名が右立会人となるについて我妻委員長からその旨の辞令交付をうけたことを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、不在者投票立会人については、不在者投票管理者は当該市町村の選挙人名簿に登録された者を立会わせなければならない(令五六条二項)と定められてはいるが、その選任については法三八条に規定するごとき厳格な手続は定められていないところであり、成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし四によれば、右不在者投票立会人となつた生田目ら四名の者はいづれも平田村選挙人名簿に登録された者であることが認められ、同人らが右の如く立会人となつた経緯に鑑みると我妻委員長からその辞令交付がなされていないからといつてこれを違法と認めることはできないから、原告の主張は理由がない。

2  立会人と不在者投票管理事務補助執行者の兼務

本件選挙において、村委員会受付にかかる不在投票者二五二名のうち一名が選挙日に村民でなくなり、その他の二五一名が別表1ないし252(66が欠番)記載のとおりであること前記のとおりであり、このうち、立会人欄に「小林トミエ」と記載された五四名は小林トミエが不在者投票立会人であつたが、小林トミエは村議会事務局職員で本件選挙においては、村委員会書記として投票者に対し投票用紙や封筒を交付し、投票済み投票紙の入つた封筒を整理して保管するなど不在者投票管理事務をしながら、さらに、投票立会人ともなつて両職務を兼ねて行なつたこと、以上は当事者間に争いがない。そして、不在者投票管理者の管理事務補助執行者が同時に立会人を兼ねることは違法であり(前掲最高裁判決)、右小林トミエが立会つた五四名の不在者投票が無効であることは被告も認めるところである。

次に、別表立会人欄に「生田目昌幸」と記載されている一九二名につき、生田目昌幸が立会人であつたことは当事者間に争いがなく(原告らは、このうちの若干の者については不在者投票用外封筒の立会人欄の「生田目昌幸」の氏名は、別の氏名が記載されていたのが後日に書き変えられたものである旨主張しているが、ともかく、同人が立会人とされていること自体は争わないのでこの一九二名については生田目昌幸が立会人であることを前提として本項の主張をしているものと理解する)、原告らは生田目昌幸もまた不在者投票管理事務補助執行者と立会人とを兼ねたから、同人が立会人となつた不在者投票もまた無効である旨主張するので判断する。

生田目昌幸は平田村議会事務局長であつたが、本件選挙に際して同事務局職員の小林トミエらとともに村委員会書記に併任されたこと、また、不在者投票記載場所が平田村役場庁舎内にある村議会事務局事務室内の一隅に設置されたことは前述のとおりであるが、<証拠>を総合すると、右村議会事務局事務室内の一隅に設置された不在者投票記載場所は、生田目昌幸が小林トミエと向かい合つて仕事をしている事務机から約二メートルの距離のところにあり、両名は右場所で村議会事務局関係の執務をする傍ら、不在者投票の投票者が訪れたときは村委員会書記として前記熊谷書記長から指示された立会人のほか、後記のような不在者投票事務に従事したこと、すなわち、不在者投票の投票者はまず村役場内総務課事務室に設けられたその受付を経た後、右不在者投票記載場所に赴くのであるが、右両名は右事務机に在席していてそこに不在者投票の投票者が右受付を経て訪れたときは、これに小林トミエが前記のように投票用紙と投票用封筒を交付し、生田目昌幸が記入済み投票の封入の仕方を指示説明したこと、そして、小林トミエが不在者投票立会人となつたときは同女が投票者から封入済み投票用封筒を受領し、また、生田目昌幸が不在者投票立会人となつたときは同人が投票者から封入済み投票用封筒を受領したこと、なお生田目昌幸が小林トミエの不在中に単独で投票者に投票用紙と封筒を渡すとともに不在者投票立会人となり、投票者から封入済み投票用封筒を受領し、それが別表記載の何れの投票者に関するものか特定することはできないものの、少くともそれは一〇件以上はあつたこと、右のように生田目と小林の両名は、熊谷から指示された立会人の外に右の投票管理事務にも従事していたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

また、別表139145146214237238241244記載の投票者については、生田目昌幸が不在者投票立会人であつたこと前述のとおりであるが、このうち別表139記載の投票者については、鑑定人山田重男の鑑定の結果によると、不在者投票用外封筒の表に代理投票者として「生田目昌幸」と記載されていたのが、のちに消去されて「蓬田栄男」と書き変えられていることが認められ、別表214記載の投票者については、同じくそれに葛原末吉本人の投票とされているのに、その署名が本人のものでないことを理由に被告において無効投票と判定したものであるが、検証の結果によると、その投票者氏名を記載したのは生田目昌幸であることが認められ、別表237238244記載の投票者についてはその代理投票者の氏名「蓬田栄男」は、前記鑑定の結果によると、もと別の氏名が記載されていたのが消去されて書き変えられたものと認められるが、前記経緯に鑑みると、そのもとの氏名は「生田目昌幸」であつたものと認められ、別表241記載の投票者については、証人生田目昌幸の証言とこれにより記載事項が書き変えられた個所のある不在者投票用外封筒と認められる甲第五四号証の一によると、不在者投票用外封筒に投票者の氏名を記載したのは生田目昌幸であることが認められ、別表145146記載の投票者については、検証の結果によると、右投票の不在者投票用外封筒に投票年月日を記載したのは生田目昌幸であつたことが認められる。

そうすると、生田目昌幸は、小林トミエと共に前記事務室における不在者投票において同女と個々の事務を分担しつつ一連の選挙管理事務(投票用紙の交付等)及び不在者投票管理事務に従事したほか、立会人にもなり、また、特に小林トミエが不在のときは生田目昌幸が単独でその双方の職務を兼ねて行なつたものということができる。

不在者投票の実情を考慮すると、選挙人が少なく、また、選挙事務従事者の数も限られる小さな地方公共団体においては、不在者投票立会人となるべき者と定めてこの者を不在者投票期間中を通じ不在者投票管理事務手続には一切関与させないで待機させておくまでの必要はなく、投票管理者又は補助執行者が合わせて二人投票所に居るときは、そのうちの一名は投票の立会人としてこれに立会させることも違法ではないと解され(最高裁昭和三六年六月九日判決、民集一五巻六号一五五八頁)、また、投票者二人が同時に不在者投票に来合わせた場合、一人の投票者に対しては甲職員が事務手続を行い乙職員が立会人になり、他方の投票者に対しては乙職員が事務手続を行ない、甲職員が立会人になることは許されるものと解するを相当とする。

しかし、不在者投票管理者は不在者投票の事務執行機関であるのに対し、不在者投票立会人は右執行機関の事務処理に対する監視機関であつて、両者はその性格と立場を異にするものであること、および、選挙の自由と公正を確保するため立会人を不在者投票に必置の機関として定めた法の趣旨にかんがみるときは、不在者投票事務従事者がある投票者につき立会人となつた場合には、その投票者の投票管理事務には関与してはならないのであり、また、投票事務従事者が二人投票所にいる場合に、その投票に訪れた投票者についての投票管理事務と投票の立会とをその二人が同時にしかも混然と行なつたときは、その一方が投票管理事務執行者であり、他方が立会人であつたと擬制することは許されないというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実に照らすと、生田目昌幸は、小林トミエが、投票者に投票用紙と不在者投票用封筒を交付した場合に、記入済み投票用紙の封入の仕方を指示説明し、さらに、自己が不在者投票立会人になつたときには自ら投票者から封入済みの投票用外封筒を受領してこれに投票年月日を記入し、なお、その他、不在者投票の受付事務や、その代理記載をもしたものであつて、これらは、いずれも不在者投票管理事務に外ならないから、生田目は小林と共に一体として不在者投票の管理事務の補助執行とその立会とを同時に兼ねて行ない、また、そのいずれか不在のときは他の者が一人で右の両職務を兼ねて行なつていたものということができる。

前記のとおり、不在者投票管理事務補助執行者が特定の投票者の投票につき同時に立会人を兼ねることは許されないから、前記小林トミエが立会人であつた五四票と同様に、右生田目昌幸が立会人であつた一九二票も無効のものと認められる。

三不在者投票用外封筒の虚偽記載と記載事項の書き変えについて

1  虚偽記載

<証拠>によると、別表41189記載の投票者は生田目昌幸に代理記載をさせて代理投票をしたのに、蓬田栄男に代理記載をさせて代理投票をしたものとされていることが認められ、また別表22728303140616264148193194214250記載の投票者は代理投票をしたものであるのに、不在者投票用外封筒の記載には本人投票とされているため、被告において無効の投票であると判定したものであることは前述のとおりである。そして、検証の結果によると、このうち別表148214の投票者氏名は生田目昌幸の筆跡であることが認められる。

2  書き変え

鑑定人山田重男の鑑定の結果および検証の結果によると、不在者投票用外封筒のうち、

(イ) 別表3875858690122139143168172191237238244249記載の各投票者の代理投票者氏名

(ロ) 別表93537757980133139235236237238244246記載の各投票者の立会人氏名は、いずれも、もとは別の氏名が記載されていたのが消去されて、現在記載されている別表記載の各氏名に書き変えられたものと認められる。

そして、右鑑定の結果によると、右の(イ)のうち、別表388586139168249記載の分については、もとの文字は「生田目昌幸」であつたと認められ、(ロ)のうち、別表377980235236237244246記載の分については、もとの文字は「蓬田栄男」であつたとそれぞれ認められる。

また、右鑑定および検証の結果によると、

(ハ) 別表5693537394152757685868890122143149168172191198201233235237238244246249記載の各投票者の氏名は、もと記載されていた氏名の文字が消去されて、現在記載されている別表記載の各氏名に書き直されたものと認められるが、右鑑定の結果によると、別表9249記載の分については、もとの文字は現在記載されている氏名と同じ文字であつたこと、また、別表75768590記載の分については、現在記載されている文字の筆跡は宣誓書との対比により各投票者本人の筆跡と同じであることがそれぞれ認められ、また、<証拠>によると、別表37149記載の分については、現在記載されている文字の筆跡は投票者本人のものと認められる。

そこで、右の(イ)(ロ)(ハ)の書き変えのうち、(ハ)の投票者氏名については、代理記載によらず投票者本人が記載する場合に、自身の氏名を書き違えて書き直すというようなことは稀であろうから、右に、前後同一の氏名の記載があり、又は本人の筆跡であると認定した八票を除く二一票の投票者氏名の書き変えは、その実情と手続につき疑惑を抱かしめるものであるというべきである。

さらに、右(イ)と(ロ)については、証人熊谷行雄の証言によると、これら書き変えをしたのは被告が審査のため調査した直後であること、そして、その書き変えは主に生田目昌幸と蓬田栄男によつて行われたことが認められ、右証言および前記の鑑定および検証の結果によると、その書き変えは、もとの文字が見えなくなるように消ゴムで消してその上に新しい文字を書くという方法をとり、しかも、ペン書きの文字にはそのまま手をつけないで、鉛筆書きの文字についてのみ書き変えをして、後でその訂正をしたことが分らないように意図したものであることが認められ、証人生田目昌幸、蓬田栄男の証言によると、生田目昌幸は同人が投票管理補助執行者と立会人とを兼ねたのがどの投票者についてであつたのか詳らかに記憶しておらず、また、同人と蓬田栄男はそれぞれ個々の投票者に対していかなる行為をしたのかこれまた詳らかに記憶しているわけではないのに、右書き変えは右のように具体的個所の二九例に及んでいることが認められ、しかも、前記の鑑定および検証の結果によると、別表139記載の投票者については、立会人氏名を「蓬田栄男」から「生田目昌幸」に書き変える一方で、代理記載者を「生田目昌幸」から「蓬田栄男」と書き変え、また、別表244記載の投票者については、立会人を「蓬田栄男」から「生田目昌幸」と書き変える一方で、代理記載者をもとの氏名(不明)から「蓬田栄男」と書き変えるなどし、一方、別表189記載の投票者については、証人佐藤良夫の証言によると、代理記載者が生田目昌幸であるのに、不在者投票用外封筒では代理記載者が「蓬田栄男」となつている(これは、以前別の文字が記載されていたのを「蓬田栄男」と書き変えたのか、当初から「蓬田栄男」と記載されていたのか、鑑定の結果でも判然としない)などの事実が認められるが、これらは、生田目昌幸が不在者投票管理事務補助執行者として不在者投票管理の執行面の仕事をした事実を隠ぺいすることによつて、同人がそれと兼ねて立会人となつた投票が無効となるのを避けようとした意図的なものであつたと認められる。

ところで、右の投票に係る不在者投票用封筒はいわゆる「投票に関する書類」にあたるものであるから、本件選挙に係る村長の任期間中村委員会において保存しなければならないものであつて(令四五条)、保存中は、これが作成されたままの状態で適正に管理されて保存されていなければならないものである。

けだし、選挙については、その効力に関する「争訟」の手続が規定されていて、後日その争訟が提起されることが予想されるのであるから、これに備え選挙に関する書類が当該選挙にかかる当選者の任期間中選挙管理委員会において保存されなければならないのは当然であり、かかる趣旨に鑑みれば、その保存は選挙の公正のためにそれが作成されたままの状態を維持して適正に管理され、いやしくも、これが改ざんを疑わせるようなものであつてはならないものと解するを相当とする。

本件において、不在者投票の立会人は存在したのかどうか、またそれが存在したとすればそれは誰であつたのかなどが争われているものであること前記のとおりであるが、すでに、争訟が提起された以後前記のような書き変えが行われたことは、右選挙書類の保管に関する法の趣旨に反するものであるのみならず、本件の不在者投票全体の適法性について疑惑を生ぜしめるものであり、違法というべきである(最高裁昭和三七年一二月二六日判決民集一六巻一二号二五八一頁参照)。

四不在者投票用内封筒に封がされなかつたことについて

検証の結果によると、前記不在者投票二九一票のうち一一七票については、その内封筒の封がなされていなかつたことが認められ、また、証人相良利一、水野トメの証言によると、右一一七票の中には別表185186187252記載の投票者の分四通が含まれていることが認められるが、その他はいずれの投票者のものであるかこれを確定するに足りる証拠はない。

そして、右のように不在者投票の内封筒に封がなされていないことは令五六条一項に違反するものであることが明らかである。

五以上のように、別表記載の投票者による不在者投票のうち、立会人欄に「小林トミエ」および「生田目昌幸」と記載されている分合計二四六票については、その不在者投票が右両名の不在者投票管理事務補助執行者と投票立会人とを兼ねた間になされたもので、法四九条、令五六条一項、二項に違反し、しかもこれらの中には前記のように代理投票であり乍ら本人投票であるかのような記載となつていて令五六条一項、三項に違反するもの、不在者投票用内封筒に封がなされないで令五六条一項に違反するもの、外封筒の所要記載事項につき村委員会書記が後日に書き変えをしたことによつて選挙の公明と適正に疑惑を生じさせるもの等が含まれているから、右の二四六票はすべて無効であると認めるのを相当とする(なお、この中には被告において不在者投票事由がないとして無効と判定した一四票も含まれている。)。

ところで、選挙の規定に関する違反があつて、それが選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあるときは、その選挙の全部又は一部が無効となるものであるが(公職選挙法二〇五条一項)、不在者投票の管理に関する違法は選挙の規定に関する違反にあたり、そのため無効となつた不在者投票の数が当選者と落選者の得票差の数を越えるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあるものと解するを相当とする(最高裁昭和四六年四月一五日第一小法廷判決、民集二五巻三号二七五頁参照)。

しかるところ、本件選挙において、沢村金治と原告高橋との間で当選が争われた投票総数は五六二六票であり、このうち沢村金治が二九〇五票、原告高橋が二七二一票を各得票したので、差一八四票の差で沢村金治が当選者となつたものであること前記のとおりであるが、このうち前記のように二四六票が無効であるからこれは選挙の規定に関する違反があつてそれが選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあるものというべきであり、従つて、本件選挙はこれを無効とすべきである。

よつて、原告らの本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(福田健次 小林啓二 斎藤清実)

不在者投票者氏名<省略>

被告指定代理人の氏名の更正決定<省略>

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